








人間、歳をとると、老後のことを考えるようになる。特に私のような、年金も保険も養ってくれる人もない身だと、「お金だけが頼り」になりやすい。けれど、あちらの世界に旅立つ時に、お金は持って行かれないのだ。どれだけたくさん貯め込んでいようと、誰ひとりとして持っては行かれない。そんなこと、誰でも知っているはずなのに、老後の不安から「お金を貯めなきゃ」と思いがちになる。明日のことなど考えられない性格のお気楽人間の私でさえも、「少しは貯めておかないとヤバいのではないか」と思いはじめていたくらいだ。
ところが、ある時、私はハタと気がついた。「この世からあの世に持って行かれるものがたったひとつだけあるぢゃないか」と。それは、良いことをしたという実績だ。つまり、「徳」。徳を積んだ善人は天国に行かれるけれど、悪人は地獄に堕ちる……なんて、子どもの頃に聞いた時はいまいちピンとこなかった。けれど、歳をとった今、「徳を積んどかねばヤバいのではないか」と思うようになったのだ。
そんなわけで、今年に入ってから「イイコト貯金」というのをしている。あの世まで持って行かれる唯一の貯金。小さな良いことをちょっとずつ貯めているのだ。
そうしようと思ったのにはわけがある。もちろん、地獄で釜ゆでになるほどの悪いこともしていないし、賽の河原で石を積み上げなくてはならないようなこともしていない。だから、地獄に堕ちることもないとは思うのだけれど、ただ天国に行かれればいいというものでもない。天国でいいポジションにつけるかもしれないというのもなくはないが、それだけでもない。私にはどうしてももう一度会いたい愛犬がいるのだ。心底かわいがっていたのに、早くに旅立ってしまったコたち。イイコト貯金が満期になる時、神様があのコたちにもう一度会わせてくれるような気がするのだ。
こんな下心満点の貯金でも、しないよりはマシだと思う。たとえばこんなことがあった。いつも行くパン屋さんのレジで5万ルピア札を出して4万ルピア分を支払おうとしたら、おつりに10万ルピア札をくれたのだ。1万ルピアと10万ルピアのお札は同じ赤色なので間違えやすい。正直なところ、一瞬、「ラッキー」と思わないでもなかった。けれど、これはイイコト貯金のチャンスなのだ。そう思い直して、レジの女の子に間違っていることを教えてあげると、その子はとても嬉しそうな笑顔で何度も何度も頭をさげてお礼を言ってくれた。
こんな小さなことでも、良い事(あたりまえの事だけど)をすると気持ちがいい。人の間違いにつけこめば9万ルピア儲かったかもしれないけれど、「お金はあの世に持って行かれない」のだ。その分、イイコト貯金をした方が結局は得であることに間違いはない。おまけに、人から感謝される気持ち良さもついてくる。しかもこの貯金は利率がとってもいいのだ。日本の銀行のようなケチな利率ではない。元の何倍にもなって返って来るのだから。そう思えば、あほらしくって細かいおつりなんぞで得しようなんてセコい気にはならなくなる。
これを読んでくれている人の中には、「神様なんて信じてないし」という人もいると思う。私もこの国に来るまではたいして信じていなかった。スピリチュアル系の人たちが「やっぱ、愛よね〜」なんて言いあっているのを横目で見ながら、「キモチ悪っ」と思っていたクチだ。けれど、ここに来てから考えが変わった。
バリの人たちはとても信心深い。ほぼ100%の人が神様の存在を信じていると言っても過言ではないだろう。もしもここで、その存在自体を疑うようなことを言ったら大変なことになってしまう。死後の世界や輪廻転生にしても同様で、彼らにとっては疑う余地のないことなのだ。
日本もバリも同じ農耕民族。きっと日本も昔は同じだったんだろうと思う。田畑を耕し、土や雨、太陽に感謝しながら、神様の存在を身近に感じていたに違いない。けれど、今の日本で神様の存在や輪廻転生を心の底から信じている人はどれくらいいるのだろうか。
ここには確かに神様が存在している。みんなが信じているからだ。信じて、崇めて、その存在をはっきり認めているから、神様もその威力を発揮しやすいんだと思う。だからここでは不思議なことが平気でおこる。私のように信仰心がまったくなく、初詣にもほとんど行った事のないような人間でさえ、神様の存在を信じざるを得なくなるようなところなのだ。だからなおさら、自分のしたことがダイレクトに自分に返って来る。因果応報の法則が日本よりもずっと早いスピードでおこる。それを逆手にとったイイコト貯金だ。ズルいかもしれない。結局、得をしようという魂胆が丸見えでイヤラシいかもしれない。けれど、私はそれでもいいと思っている。それでも神様は、徳を積んだ人に徳をもって返してくれると信じている。悪いことをするよりよっぽどマシだし、たとえとっかかりがなんであれ、良い事は良い事だから。もしも世界中の人がこのイイコト貯金を始めたとしたら、殺したり、騙したり、傷つけたりする人がいなくなって、世の中は本気で平和になるはずだ。
もしも興味があったら、あなたも是非やってみてほしい。特に、なにが願い事がある人、叶えたい夢を持っている人は、神様にお願いするだけぢゃなく、自分から貯金することも大事なんぢゃなかろうか。信じてもらっていない日本の神様もきっと利子をはずんでくれるはずだから。
![]()
今月のリコメンド玉
ハマりまくりのソトアヤム♪

日本人にも馴染みやすい味で人気のソトアヤム(チキンスープ)が、クロボカンのワルン「ワルン・デス」のメニューに加わった。これがまた美味しくて、ごはんを入れて雑炊風にして食べると、もう病みつき! 毎日食べても飽きない味だ。
ワルン・デス WARUNG DESU
Jl. Petitenget No.100B, Kerobokan
スミニャックのオベロイ通りからプティトゥンゲッ通りに入り、
徒歩約12分の左手。「グルメカフェ」横の路地を入る
Tel : 732451 / Open : 9:00 - 17:00
![]()
田 尾たんぼ(たおたんぼ):神奈川県生まれ、東京育ち。1992年インドネシア・ジャワ島のガジャマダ大学に語学留学後、1993年バリ島に移住。旅行会 社、免税店、アクティビティ会社勤務を経て、独立起業。本誌編集責任者。食べることはもちろん、買い物もスパも大好きなお気楽人間。肥えすぎて重くなった 老体にムチ打ちながら美味しいものを求めてさすらい歩く一方、ダイエットを人生最大のライフワークともしている。自他ともに認めるイヌバカおばさんで、か わいいコを見るとデロデロになる一面も。著書に「バリ島極楽チャンプル」「バリごはん/バリ島極楽チャンプル2」(共にソニー・マガジンズ)。海外書き人 クラブ、ライターズネットワーク会員。「エイビーロード」のWEBサイト(http://www.ab-road.net/guide/)にバリ島情報を連載中。自サイトは「極楽たんぼ」http://www.taotam.com