5. CHANCE
チャンスという言葉は大好き。チャンスは目に見えるものではない。だけど「これだ」と、その瞬間を逃さずに掴まなくてはいけないようだ。
例えばホームを上がると、乗ろうとしている電車のドアがちょうど開いている。「チャンス!」と心の中で叫んで足早に乗り込む……そんな些細なことをチャンスととるかどうかは疑問だが、この心構えはきっと大きなチャンスまでを引き寄せると私は信じていた。そうして私は今までに数々のチャンスに巡り合ってきた。
有名な調香師ジャックポルジュの名前をご存知の方もいるだろう。この人こそがシャネルの香水を今までクリエイトしてきた超一流の調香師だ。その彼は今年新しい香水を作り上げた。その名も「CHANCE」。

シャネルがこの香水に今まで以上の意気込みを表しているのがよくわかる。まず今までの四角いボトルから一気に丸いボトルに変わった。そして箱の色。白・黒やグレーなどが多かったが、今回のようにピンクの箱はシャネルの香水の中で珍しい色だ。そして最後にこの名前。英字の名は実はシャネルにとってはじめてのことなのだ。今までも香水の歴史に話題をもたらしてきたシャネルは、この香りで香りの世界に斬新な革命を起こす、と誰もが予感した。この「チャンス」は「シャネルNo.5」と同様、歴史に残る作品になるとまで言われている。
名前に惹かれて発売当時香りを嗅いだ私も一気にこの香りが大好きになった。シャネルの香水は花やハーブなどの天然原料を育てる農園なども持っている上、材料の質にはかなり研究して厳しい選別をしている。チュニジアやシチリア、ブラジル、コモロ島、グラース、ヴァージニア、ハイチ、レユニオン島などあげたらきりがない原産地に赴き素材の香料を厳選する。あの「ココシャネル」ではインドネシアのパチュリという香料も使われているんですよ。
そんなシャネルの香水は他のブランドの香水に比べると「込み入った感じ」がするはずだ。確かにシャネルの香水コンセプトは「複雑な構成」にある。しかしその複雑さ及びシャネル独特の才能というか、女性の本能を呼び覚まして美しく変身する媚薬のような香りゆえ、敬遠する香りも実はあったりする。「大人になったら味わえる知性の香り」とか、よく解からない説明を読み、深すぎる甘い香りにクラクラしたりするのも事実。でも今度の「チャンス」は確かに違う。甘いがすっきりしている。よくやったジャックポルジュ! もちろん個人的には全然知らない人だけど。
さて、当のマドモアゼルシャネルはいつもチャンスを信じていたという。それにクリスタル(水晶)も好きだったらしい。彼女は幸運を呼び込むものやお守りなどをとても大事にしていたらしい。彼女が亡くなる頃に作られていた「クリスタル」という香水は、そんな見えないものの力を信じた彼女の世界観を表現したそうだ。私も一時期使っていた。
実は、香りは脳の本能的な部分に直接届く。これは嗅覚のみの動きで、視覚など他の五感からのものは新皮質に届く。だから香りというのは非常に特殊なものなのだ。インドネシアでは香りで見えないものの存在(スピリットなど)を判断したりすることもある。もちろん良い香りがしたときには良いものがそこにいるという。私も経験があるが、何かの気配を感じた時に気をつけてみると香りがしてくることが多い。花の香りがしたり、動物的な香りや人間臭い香りがしたりする。その香りで何が来ているのかが大体はわかる。その昔ある人に言われた事だが、香水をつけるというのはよい香りを発する、つまり良い気を発していくという意味もあり、良いものと繋がっていく。さらに「良質の香水」をつけるということは、それだけで運気をあげることらしい。ならば良いネーミングのものがもっといいと思いません?――「CHANCE」。もちろん私はもう買いました。
この香水がどうしてここまで革新的だといわれるかというと、香水の常識であるトップ・ミドル・ラストノートというようにピラミッド型に香りの時間経過による変化が起こらないのがこの「CHANCE」なのだ。つまりそれぞれのエッセンスが丸く円を描くように繋がりあって球を作り出している。離れては結びつき、その循環は決してとどまることがないのだ。
ちなみに、マドモアゼルシャネルはチャンスについて次のような言葉を残している。
「チャンスは生きる術よ」。
きっと彼女の人生はチャンスが循環してとどまることがなかったのではないだろうか。 |
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