第一回目はウルワツ。気持ちイイ風を身体全体で受け止めた晴子サン、この風にどんなものを見たのでしょう?
風の巻 -ウルワツ-
観光客を乗せたバスや車でごったがいしている駐車場を上手いことくぐり抜け、辿り着いた断崖絶壁にある観光名所。此処はインド洋に沈む夕日を浴びて、70メートルの絶壁に建ち、バリの大寺院のひとつに数えられるウルワツ寺院。海の霊を崇拝するため、高僧エンプ・クトゥランによって建てられたといわれている。此処を訪れるのは2度目だが、初めて夕日を拝むことになる。わくわくしている私の今回の連れは、「良い風が吹くんですよ〜!」と訳の分からない事を言う編集のゆみさんと、小さい頃から寺好きの我が娘ジョイという不思議な組み合わせ。
神聖な場所へお邪魔するというのに、とても正装とは言い難い観光客に「サロンつけてくださ〜い!」と、にこやかに腰巻きを付けさせる現地のお兄ちゃん。「お寺に行くなら浴衣が着たい」というジョイの意向は正しかった様で、腰巻き係のお兄ちゃんに「キモノ…最高!」と偉く評判が良かった。長い階段を駆け上がるジョイを見ながら「寺の…石階段…と浴衣って…やっぱり…いいわね〜」と話す私達の会話は、タバコの吸いすぎと運動不足の為、途切れ途切れ…。ぶらぶらと寺院内の遊歩道を歩き、お猿様にジョイの扇子も見事に取られ、恒例のお猿の引ったくりの儀も滞り無く終了。
我々3人は、壁沿いの回廊を通り、道らしき道?を辿り、やっと見付けたゆみさんお勧めの見晴台。夕日も沈む準備を始めた夕暮れ時。向こう側の崖っぷちの天辺には、ウルワツ寺院が美しい。だがしかし、断崖絶壁! 下は海。壁もなけりや柵もない! 下界では波が真っ白い水しぶきを上げながら、崖にぶち当たっている…怖い様な楽しい様な…。だけど妙に風が綺麗だ…海風なのに湿気っぽく無い。木枯らしの様に埃っぽく乾いてもいない。70メートルと言う高さで、オンショアの風では臭いも無い…。今まで気が付かなかったが、ゆみさんが言うように生まれたばかりの確かに良い風だ。周りには、お散歩休みをする人たちと野牛が一頭。のんびりした空気の中、目の前に広がるパノラマ状態のインド洋に向かい、足下から聞こえてくる波の音を聞きながら、体いっぱいに風を受け、きもちよさそ〜にしている。こんな所まで遙々お散歩した甲斐があった。
そういえば、家の近所に住んでいる青年がいて、彼はロスアンジェルスではちょっと名の知れたたこ揚げ師。なぜなら彼は全盲だがらなのである。殆ど毎日たこ揚げする彼をジョイは "カイトマン" と呼んでいる。ある時は学校の校庭で、ある時は住宅街の歩道で、どんな障害物にも引っかかることなく見事に凧を上げ下ろししている姿は、全盲とは思えない。 "カイトマン" 曰く、「神が呼吸すると風になる」んだそうだ。ご機嫌がいい日はどこまでもどこまでも高〜く凧が上がるそうだ。だけど凧がどれ位高く上がっているのか、彼はどうして分かるんだろう…?
なんでそんな事を思い出したかというと、崖っぷちでジョイが "カイトマン" とか言いながら、両腕をひろげて風を受け、ハタハタと浴衣の袖をはためかせていたからだ。私も小さい頃、風の強い処で自分の重心を風に預けてどれ位立っていられるかという遊びをした。久しぶりに小心に帰って、ジョイの真似をしてみた。目を閉じてみると、何だか "カイトマン" の凧の様に空高く飛んでいる気分になる。もしかしたら "カイトマン" と私は、今同じ気持ちなのかも知れないと思った。
割とご機嫌の良い今日のバリの神様の呼吸のお陰で、体も心もすっかり軽くなり、ついでに体中の埃も払って頂いた。でも神様だって何時もご機嫌な訳ではない。インド洋の水を吸い上げ、積乱雲を作り、強風が渦を巻き、台風や嵐となって人を戒める。そういう二極性、陰と陽みたいなものを此処にいると感じる。夕日で真っ赤に染まるウルワツ寺院が此処に建っているのは、きっとそういうことなのだろう。
イタズラが大好きなウルワツ名物の猿。通路の脇で目の前を通る人々を虎視眈々と見つめている。写真上は、観光客の帽子を見事なまでに素早くゲットしたコ。満足そうに「がしがし」と噛みしめた後、自分の噛み跡に見とれている……?