数あるバリダンスの中でも一番人気のケチャックダンス。もちろん晴子さんも、その幻想的な世界の大ファン。火の持つ不思議な力を充分に活かしたケチャックダンスの魅力を語ってくれました。

火の巻 - ケチャックダンス -


 ケチャックダンスは凄いと思う。知れば知るほど凄いと思う。何度見ても、何度聞いても凄いと思う。何だかんだで、私はケチャを4回見ている。違う場所で、違うグループの、違う演出だが、未だ飽きてはいない。また見たいとも思う。やっぱりケチャは凄いと思う。

 寺院の境内で100人近い男達が、円陣を組んで「チャ、チャ、チャ……」と声をあげ、合唱が闇にこだまする(この合唱がまた堪らない!)。円陣の中央には明かりが灯され、古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」が幻想的な踊りで演じられる。

 ケチャといえば、バリに古くから伝わる独自の芸能だとばかり思っていたら、実は、1930年代に作られた新しい舞踏劇なんだそうだ。ドイツ人画家ウォルター・シュピーツが、映画「デーモンの島」の1シーンの為に創作したらしい。彼はバリの古典舞踊であるサンヒャン・ドゥダリで、少女をトランス状態に誘い込むかけ声にインスピレーションを受け、ケチャ特有の合唱を生み出した。

 ケチャは「口のガムラン音楽」とも言われ、楽器は一切使わず、合唱のリズムはとても複雑な構成になっていて、五つほどのパートに分かれ、それぞれが全く違うパターンのリズムを担当する。その重なり合いが音叉の うねりのような不協和音を生じさせ、呪術的な雰囲気を醸し出す。ケチャの演者でさえトランスするんだから、聞いてる私がケチャ中毒に罹るのも何の不思議もないわけだ。やっぱりケチャは凄いと思う。

 最近見たケチャで、たいまつ片手に踊るケチャがまた凄かった! 暗闇で赤々と燃えるたいまつの炎は、時々生き物の様に見える。というか、生き物だったんだ! と言う事を実感させられる。合唱を担当する男達がたいまつを掲げて踊る度に炎も踊る…。その動きを見ていると何だか興奮してくるのは、私だけなのだろうか? いや、エッチなやつじゃなくて、何だか血が騒ぐというか…、火そのものが持つ絶大なるパワーみたいなのを、バーン! と感じちゃう。その熱とエネルギーを頂く訳である。
 とにかく、このケチャは凄いと思った。踊り子達の衣裳も踊りも、それはそれは煌びやかで幻想的で美しい。良く訓練された彼女達の踊りのポイントでもある指先は、信じられないぐらい反り返る。体の動きといい、目や首の動きといい、彼女達の体はかなり宇宙的な作りの様である。王様や猿役の人たちも迫力があり、ちょっぴり笑いのセンスもあったりする。

 こんな風に、1930年にケチャが創作されてから、今も手が加えられ新しい演目が作られ、日々変化しているケチャだが、今やバリ芸能には欠かせないものとなった。

 上演の後ふと目をやると、自らのトランスを解くため聖水を受けるケチャの演者を見つけた。新しい物の中にも伝統を重んじる心が受け継がれているんだな〜と、バリ人のその精神に感激する。やっぱりケチャも凄いけど、ホントはバリが凄いんだな〜と、思った…。