5. あなぐら大作戦
バリ島にはニュピと呼ばれる旧正月がある。この日は火を使ってはいけないとか、灯りをつけてはいけないとか、大きな音を出してはいけないとか、外出してはいけないとか、いろいろな決まりがあって、たとえ外国人でもこれを守らなければならない。とは言え、真っ暗な中でひと晩過ごす人というのも珍しく、たいていは家の窓に新聞紙などを貼って、外に灯りが漏れないようにして小さな灯りをつけているのが普通だ(灯りが外に漏れると、見回りの人に怒られる)。それがめんどくさければ、この機会にお隣のロンボク島やジャワ島、シンガポールなどに遊びに行ってしまう。なんせ外出禁止なので、必然的に会社もお休みになるから、ここに有休やらなんやらを足して連休にしてしまうというというすんぽーだ。バリ島内でも大型ホテルの中は治外法権になっているので灯りがつけられるから、お泊まりに行く人もいる。だから、毎年ニュピの前になると、「今年のニュピはどうするの?」という言葉が在住者の間では挨拶代わりのようにかわされることになる。
私もホテルにお泊まりに行ったことがあるけれど、ニュピのホテルというのは混んでいる上に誰も外に出られないので、プール周りにやたらと人が多い。食事時のレストランも混み混みでなんだか落ち着かない。どうせお金を出してホテルに泊まるんだったら、ほかの時の方がずーっと楽しいと思った。それに今は犬がいるので、彼らをおいて自分だけホテルにお泊まりも申し訳ない気がする。というわけで、最近の私はもっぱら「ニュピはおうち派」だ。

ニュピを家で過ごすとしても、昼間はなにも問題がない。外出できないだけで普通に生活ができる。問題は夜だ。元々ずぼらな私は、たったひと晩のために窓に新聞紙を貼るなんて、めんどくさくってたまらない。しかも今年は引っ越しをしたので、新居の大きな窓を全部ふさぐなんてとんでもない話なのだ。これは困った。さ〜て、どうしよう……?
そこでひらめいたのが「あなぐら大作戦」だ。別名「家庭内路上生活作戦」。
コの字になったキッチンカウンターの上にダンボールの屋根を作って、その下に潜り込めば、窓に新聞紙を貼らなくても光は漏れないはず。ここにダンボールの机をおいてコンピュータでDVD鑑賞をするという作戦だ。う〜ん、素晴らしい! 我ながらグッドアイデア賞だと、自画自賛の嵐が吹き荒れた。
ところが、ここに大きな誤算が生じてしまった。私がこのあなぐらに入ると、うちのわんずたちも我も我もと入って来た。こんな狭いあなぐらに、デブったおばさんと大型犬2頭+小型犬1頭がぎゅうぎゅう詰めになるという非常事態が発生してしまったのだ。幸い、クーラーはつけていても怒られないので暑くはなかったけれど、狭い。とにかく狭い。わんずを押しのけて、なんとか足はのばせたものの、体勢が変えられない。だんだん身体が痛くなってきてしまった。ダメだ、このままではエコノミー症候群になってしまう。そう思った私は、時々あなぐらから真っ暗闇の部屋の中に出ては軽く体操をしてから、またあなぐらに戻ってDVDを観た。けれど、やっぱりどうしても身体がつらくて、結局真っ暗な部屋のソファでふて寝してしまった。せっかくひらめいた作戦も、どうやら失敗に終わってしまったようだ(涙)。来年はまた別の作戦を考えないといかんな、これは……。う〜ん、てぃだ あぱぁ〜。
*「H.I.S.バリフリーク」2007年5号掲載 |
Profile

田尾たんぼ:神奈川県生まれ、東京育ち。1992年9月インドネシア共和国国立ガジャマダ大学(ジョグジャカルタ)に語学留学。1993年12月ジョグジャからバリ島に移住。旅行会社、免税店、アクティビティ会社勤務を経て、1998年独立起業。日本語印刷物、ホームページ等の制作会社TAO代表。本誌編集責任者。著書に「バリ島極楽チャンプル」「バリごはん バリ島極楽チャンプル2」(共にソニー・マガジンズ)。海外書き人クラブ会員。
WEBサイト「極楽たんぼ」
http://www.taotam.com
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「動物はすべてを知っている 」
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*Tidak Apa Apa = ティダ アパ アパ/なんでもない、大丈夫などの意味で煩瑣に使われるインドネシア語。口語では略して「ティダ アパぁ〜」と言うことも多い。 |