11. 雑草たちの誘惑
「あらっ、こんなところに雑草がはえてる」
そう思ってつい手をのばしてしまったが最後、もうやめられないとまらない。それまでやろうとしていたことなどコロリと忘れて、雑草取りに夢中になってしまう。なんでなんだろう? 雑草って不思議だ。別に魅力があるわけでもないし、取ってて楽しいってわけでもないのに、なぜか妙にハマってしまう。「無我の境地」なんて立派なものぢゃないけれど、それに近いものがあるからなんだろうか。
熱帯に位置するバリ島では、頼んでもいないのに雑草がどんどんどんどんはえてくる。植物の育つスピードが温帯の日本とはぜんぜん違うのだ。だからここではやろうと思えばいくらでも雑草取りができるってわけ。うちの狭い庭でさえ、ちょこちょことはえてきた雑草を取り始めると時間がたつのを忘れてしまい、はっと気づいた時には1時間くらい平気でたってしまっている。この間、なにを考えているのかといえば、なにも考えていないというのが実際のところだろう。この「なにも考えずにいられる時間」というのがクセモノなんだと思う。雑草を見ると、自分でも知らないうちに「なにも考えなくていい時間」の記憶が心の底によみがえって来て、その誘惑に勝てなくなってしまうんだろうな。そして、ふーっと引き寄せられるように手をのばしてしまうのだ。悲しいサガなのね(嗚呼)。
以前住んでいた家に、夜遅く帰った時のこと。玄関脇に敷き詰めてある石ころの隙間から雑草がいっぱいはえているのを見てしまった。もう夜中の12時くらいだったと思う。いくら雑草が目に入ってしまったからといって、なにもそんな時間に取り始めなくてもいいと思うんだけど、その時もまるでなにかに引き寄せられるように手が出てしまったのだ。もちろん、あたりは真っ暗。玄関前に小さな常夜灯がひとつ、ぼーっと灯っているだけ。バリの夜は暗い。
私は荷物を置くと、「ほんのちょっと」のつもりで、着替えもせずに玄関脇にしゃがみこんだ。至近距離で見てみると、これがけっこうたくさんあるぢゃないか。あっという間に無心になってしまった私は、徐々に暗がりの方へ進んで行った。もうなにも考えていない状態だ。黄色い明かりがぼんやりと灯るだけのその場所でさえ、なんだかな〜というカンジなのに、さらなる暗がりへ手をのばしてしまったのだ。そうして、ほんの2ミリほどの小さな葉っぱをたくさんつけた草のカタマリをつかんだ時、私の指先は異様な感覚を持った。草以外の「なにか」をつかんでしまったのだ。それは石のように固くもなく、土のような触感でもなかった。瞬間的に我に返った私の指先がつかんでいたものは、・・・トカゲだった。
ぎゃ〜〜〜〜〜っ!
真夜中にもかかわらず、大きな悲鳴をあげてしまった私。反射的にトカゲを放すと、そいつも「助かった♪」とばかりにすごいスピードで逃げて行った。人の気配を感じたら、つかまれる前に逃げておいてくれればいいのに。っていうか、もしかしたら人の気配を感じたからこそ、雑草の茂みの中に隠れていたのかも。それを上からワシづかみにされちまったんだから、ヤツもたまらなかっただろう。けれど、私の指先には今でもヒンヤリしたトカゲの身体の感触が残っている。私だってつらいのだ。許せ、トカゲよ。
将来リタイアしたら、広い庭のある小さな家に住んで、日がな一日植物をいぢっているのが私の夢だったりする。けれど、たとえどんなに誘惑されたとしても、もう二度と夜中の雑草取りはしないだろう。
*「H.I.S.バリフリーク」2007年11号掲載 |
Profile

田尾たんぼ:神奈川県生まれ、東京育ち。1992年9月インドネシア共和国国立ガジャマダ大学(ジョグジャカルタ)に語学留学。1993年12月ジョグジャからバリ島に移住。旅行会社、免税店、アクティビティ会社勤務を経て、1998年独立起業。日本語印刷物、ホームページ等の制作会社TAO代表。本誌編集責任者。著書に「バリ島極楽チャンプル」「バリごはん バリ島極楽チャンプル2」(共にソニー・マガジンズ)。海外書き人クラブ会員。
WEBサイト「極楽たんぼ」
http://www.taotam.com
Member

★会員募集中★
会員条件
1. 体重60kg以上
2. 体脂肪率30%以上
3. 食べることが好きなこと
Books
今月のオススメ本

「日本語でどづぞ 」
柳沢有紀夫 著
中経文庫
¥520 (税込)
Words
今月のお言葉
雑草に 無我の境地の
極意を見たり 熱帯雨林
*Tidak Apa Apa = ティダ アパ アパ/なんでもない、大丈夫などの意味で煩瑣に使われるインドネシア語。口語では略して「ティダ アパぁ〜」と言うことも多い。 |