13. 魔法の言葉

 ネットをうろうろしている時におもしろいものを見つけた。「言霊(ことだま)の実験」というものだ。「言霊」というのは読んで字のごとく「言葉に宿った魂」のこと。

 昔の人は言葉には魂が宿っていると信じていた。これを「言霊」と呼び、そのチカラに畏怖の念を抱いていたそうだ。ところが近代化が進むにつれ、私たちは言葉を乱用するようになり、言霊の存在を忘れつつある。けれど最近では、これをもういちど見直そうと、講演会などを開いている人もいるらしい。その方は人々にこんな実験をして言霊の存在を実証している。

 まったく同じ2本の瓶にまったく同じ水道水を同じ分量だけ入れ、1本には瓶の口に向かって毎日「ありがとう」と吹き込み、もう1本には「バカヤロー」などの汚いののしり言葉を吹き込み続ける。そうすると2週間だか3週間だかで、「バカヤロー」の瓶の水ははっきり濁ってくるそうだ。「ありがとう」の水の方は澄んだままだというのに……。

 神々の島と呼ばれるバリでは、誰かのウワサ話をしていると、その人に偶然会う確率が高い。「ウワサをすれば影」ってヤツだ。会いたくない人の話はなるべくしないようにしないと、そういう人に限ってひょっこり現れたりする。だから、私は普段から言霊の存在をけっこう信じていた方だ。けれど、この実験にはおどろいた。ここまではっきり結果になって現れるものなのか。


 日本語の中でいちばん美しい言霊を持っているのは「ありがとう」という言葉だそうだ。けど、日本の、特に都会ではあまり使われなくなっているんぢゃなかろうか。あなたは一日何回「ありがとう」って言ってますか?

 バリでは、トゥリマカシー(ありがとう)という言葉を頻繁に使う。レストランで料理を運んできてもらった時、電話を切る時、タクシーから降りる時など、お客さんの方からも「トゥリマカシー」とひと声かけることが多い。「どもっ!」とか「ぢゃっ、また」とかいう軽いノリで使うことも多いけれど、それでも無言でいるよりはよっぽどマシだ。「お金を払ってお礼を言うなんてヘンだ」と思っている人がいたら、ちょっと視点を変えてみてほしい。


 先日、大阪に行った時のこと。ヨドバシカメラ・フリークの私は、ヨドバシからいちばん近いホテルに部屋を取り、シアワセなヨドバシライフを楽しんでいた。大阪・梅田のヨドバシカメラはすんごい立派なビルで、なんでもかんでも入っている。電化製品だけぢゃない。ユニクロまである。上の方にはレストラン街もあるので、お昼時になってお腹がすいた私はここに足を運び、「あれも食べたいし、これも食べたい♪ ああ、どうしよう?」と迷った挙げ句、カレー専門店に入った。そうしたらそこのカレーがうまいのなんの。あまりにおいしかったので、帰りのレジのところで「とってもおいしかったです。ありがとう」とスタッフに告げた。すると、それまで事務的に働いていたその女性の表情が一瞬で明るくなり、とてもうれしそうに「ありがとうございます」と言ってくれたのだ。私もとってもうれしくなった。おいしいものでシアワセになった気分がさらに倍増されたカンジだ。

 言葉ってスゴい。「ありがとう」のひとことには大きなエネルギー「言霊」が秘められている。だから、お金を払うとか受け取るとか、そういうこととは違う次元の問題だと思う。毎日を気分よく過ごしたかったら、誰でも使える言葉の魔法をちょっと使ってみるのもいいかもしれない。




*「H.I.S.バリフリーク」2008年2号掲載
Profile

田尾たんぼ:神奈川県生まれ、東京育ち。1992年9月インドネシア共和国国立ガジャマダ大学(ジョグジャカルタ)に語学留学。1993年12月ジョグジャからバリ島に移住。旅行会社、免税店、アクティビティ会社勤務を経て、1998年独立起業。日本語印刷物、ホームページ等の制作会社TAO代表。本誌編集責任者。著書に「バリ島極楽チャンプル」「バリごはん バリ島極楽チャンプル2」(共にソニー・マガジンズ)。海外書き人クラブ会員。
WEBサイト「極楽たんぼ」
http://www.taotam.com

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「ペットはあなたの
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 中央公論新社
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今月のお言葉
人は皆、言霊をあやつる魔法使い。
「ありがとう」からはじめよう。



*Tidak Apa Apa = ティダ アパ アパ/なんでもない、大丈夫などの意味で煩瑣に使われるインドネシア語。口語では略して「ティダ アパぁ〜」と言うことも多い。



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