14. 停電の季節

 ここのところ、我が家地方は停電が多い。大雨が降り続いた後や強風の後はもちろんのこと、普通に晴れている日でもぷっちりと電気が落ちる。雨季にはつきものの停電なわけだけど、ここ数年はだんだん少なくなってきていたので、今回のようにしょっちゅうなのは久しぶりだ。

 ちょっと前までは、電力節約のために地域毎に電気を止められる日があった。1ヶ月に1回程度、朝9時くらいから夕方5時くらいまで、ぴたっと電気を止められていたのだ。夜に電気が使えないのもツラいけれど、暑い昼間にクーラーが使えないのもかなりしんどい。パソコンを使った仕事ができないばかりか、見たいテレビ番組がある時などはかなりムカつく。けれど、それでも、文句を言ったところではじまるわけでもないので、ただただ我慢の1日をおくるか、ほかの地域に涼みに行くかするしかなかった。それでも、今住んでいる家は水道を使っているのでまだいい方だ。トイレには行くことができる。バリの家はいまだに井戸水をモーターで汲み上げているところが多いから、電気が止まると水も使えなくなってしまうのだ。私も以前はそういう家に住んでいたことがあって、トイレの水が流せずに悲しい思いをしたこともあった。まさに苦行の日だったわけだ。私はこういう日のことを「わざと停電の日」と呼んでいた。この「わざと停電の日」も最近ではほとんどなくなったおかげで、最近は快適な日々を過ごせていた。


 そういうわけでしばらく忘れていた停電の味(?)なのだけれど、ここのところの停電続きでまたしてもそのツラさを噛みしめなくてはならなかった。

 こないだなんぞは昼間の2時すぎにブチっと切れたと思ったら、夜になっても復旧しない。7時、8時と時間だけがどんどん進んでいくうちに、久々の朝までコースを覚悟した私。覚悟したのはいいけれど、そういう日に限って風もなく、窓を全開にしてもモワンという生温い空気が入ってくるだけ。あ、暑い……。クーラーがほしい。いや、クーラーはあるんだけれど、電気が来ない。普段クーラーざんまいの生活をしている暑がりの私は、全身から吹き出る汗にいらだちをつのらせていた。たまった仕事を片付けたいのにパソコンが使えない。NHKも見られない。DVDもダメだ。本を読もうにもキャンドルライトでは暗すぎて、おばさんの目にはキツい。音楽を聴くことすらできない。いったいぜんたい、あたしゃどうすりゃいいの? なにもすることがなく、退屈な時間だけがどんどん過ぎていく(嗚呼)。幸いにも9時過ぎには復旧したので助かったけれど、それでも7時間ほど電気なしの時間を過ごしていたことになる。10年ほど前にはこんなことはしょっしゅうだった。ヒドい時には丸二日も停電していたこともあった。あの頃から思えば、これくらいなんでもないこと……と思わなくては。


 しかし、私たちはなんと電気に依存した生活をおくっていることだろう。ちょっと電気が使えなくなると、途端に退屈をもてあましてしまう。電気がなければ生活できないなんて、もしかしたら人間として危険なことなんぢゃないだろうか。電気がなかった頃は、夜が暗いなんてあたりまえだったはずだ。どこに行くにも基本は歩きだったから、健脚の人が多かったはず。現代は電気のおかげで生活が便利になったように見えて、実は電気に縛られる生活をしているのではないだろうか。……真っ暗な闇の中に浮かび上がるキャンドルの灯りを見つめながら、そんなことを考えていた夜だった。




*「H.I.S.バリフリーク」2008年3号掲載
Profile

田尾たんぼ:神奈川県生まれ、東京育ち。1992年9月インドネシア共和国国立ガジャマダ大学(ジョグジャカルタ)に語学留学。1993年12月ジョグジャからバリ島に移住。旅行会社、免税店、アクティビティ会社勤務を経て、1998年独立起業。日本語印刷物、ホームページ等の制作会社TAO代表。本誌編集責任者。著書に「バリ島極楽チャンプル」「バリごはん バリ島極楽チャンプル2」(共にソニー・マガジンズ)。海外書き人クラブ会員。
WEBサイト「極楽たんぼ」
http://www.taotam.com

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サバイバル生活は人間の思考回路を活性化させる。たまにはいいかも・・・。

*Tidak Apa Apa = ティダ アパ アパ/なんでもない、大丈夫などの意味で煩瑣に使われるインドネシア語。口語では略して「ティダ アパぁ〜」と言うことも多い。



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