19. ささやかな抵抗
もともと化粧というものが苦手だった。やれどこのファンデがいいの、マスカラがいいのという話にはまったく興味がなく、それよりもお肌がキレイになるとか、内蔵の働きを良くするとかいう健康食品の方にばかり目がいっていた。どんなにお高い化粧品を塗りたくったところでもとのお肌が健康でなければ意味がない、とかなんとか能書きを並べながら、実のところ、ただのずぼらだったのかもしれない。いや、そうなのだけれど……。
ここ数年、日本に一時帰国して鏡を見ると、毛穴の大きさやお肌の荒れ具合がやけに気になるようになった。バリにいる時はまるっきり気にならないのに、日本にいるとどうしてこんなに気になるんだろう? 不思議に思ってよくよく考えてみると、照明の明るさの違いであることに気がついた。バリのほの暗い灯りの中では見えない毛穴も、日本のやたら明るい光の中でははっきりと自己主張し始めるのだ。ということは、いつもはただ見えていなかっただけで、実際はこんなにおっぴろがった毛穴であったのか……。日本に帰るたびにオノレの醜さにガクゼンとする私は、ドラッグストアで「毛穴を引き締める化粧水」やら「美白乳液」やらを買い込んでくるのだけれど、必死になって使うのは日本にいる間だけで、バリに帰って来るとあっという間に熱が冷めて化粧水すらつけない日々が続いていた。
インドネシアに来てからかれこれ16年。思えば、この間にちゃんとお化粧をしていたのは免税店に勤めていた1年間だけだったような気がする。それ以外の15年間は化粧水もつけず、眉毛を書くこととと口紅を塗ることだけしかしなかった。10代の若いお嬢さんならいざ知らず、いい歳をしたおばさんがこんなことをしていていいわけがない。ましてや熱帯の紫外線をガンガンに浴びながらなんのケアもしていなかったのだから、毛穴が開こうが、お肌が荒れようが、当然のことだったのだろう。
数ヶ月前、ふか〜く反省した私は、化粧水をつけることからぼちぼち始め、こないだはお高い輸入ものの化粧品をばっちり揃えてみた。高いものを買えばもったいなくて少しは続くんぢゃないか、という目論見からだったのだが、これが大正解。今までからは考えられない金額をつぎ込んで買った基礎化粧品は、ちょっとつけただけでおもしろいように毛穴が小さくなっていったのだ。こうなってくると、続けずにはいられない。毎晩毎晩、お肌をペタペタしながら楽しんでいる。やっぱり年齢に合った化粧品を使わなくては、なのね。高いだけあるわ。ていうか、今まで限りなくゼロに近い化粧品代で15年間過ごして来たのだから、その分お金かけないとダメってことなんだろう。
調子こいた私は、さらに「毛穴をめだたなくさせるファンデ」やら「日焼け止め効果のある下地クリーム」やら、果ては「リップグロス」なるものまで買い込んだ。かなり遅すぎる化粧デビューではあるし、いつまで続くかわからないけれど、やらないよりはマシってもんだ。
慣れない化粧をしてうろうろしているおばさんをバリ島で見かけたら、どうかあたたかい目で見てやってね。間違っても「似合わない」なんて言っちゃイヤよ。本人はこれでも必死なのだから、「てぃだ あぱ〜」と笑いとばしてやってちょうだいね。
*今回を持ちまして、この連載も千秋楽(最終回)とさせていただきます。ご愛読ありがとうございました。
*「H.I.S.バリフリーク」2008年8号掲載 |
Profile

田尾たんぼ:神奈川県生まれ、東京育ち。1992年9月インドネシア共和国国立ガジャマダ大学(ジョグジャカルタ)に語学留学。1993年12月ジョグジャからバリ島に移住。旅行会社、免税店、アクティビティ会社勤務を経て、1998年独立起業。日本語印刷物、ホームページ等の制作会社TAO代表。本誌編集責任者。著書に「バリ島極楽チャンプル」「バリごはん バリ島極楽チャンプル2」(共にソニー・マガジンズ)。海外書き人クラブ会員。
WEBサイト「極楽たんぼ」
http://www.taotam.com
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思い込んだら試練の道を
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*Tidak Apa Apa = ティダ アパ アパ/なんでもない、大丈夫などの意味で煩瑣に使われるインドネシア語。口語では略して「ティダ アパぁ〜」と言うことも多い。 |